山脇りこ様
東京・代官山で料理教室『リコズキッチン』を主宰。
旬の自家製のクラスやだしの教室も人気。長崎の旅館で生まれ、四季折々のしつらえと食材、美しい花、器に囲まれて育つ。
なんでもつくる家だったことから自家製マニアに。
旅好きで、世界&日本各地の市場や生産者を訪ねて、土地に根ざした味を探すことをライフワークにしている。
醤油、味噌、酢などの蔵をまわる調味料マニアでもある。
『いとしの自家製』(ぴあ)、『一週間のつくりおき』(ぴあ)、『明日から、料理上手』(小学館)、『今日の晩ごはんと明日のおべんとう』(家の光協会)など著書多数。
山の手猫まんま
帰ったら、食べたいものは決まっていて、もう頭の中はそれでいっぱい。玄関が見えたあたりから、最後はこけつまろびつ、駆け込んで、一目散で台所へ。
叔母も心は急くものの、着ていたよそゆきの気取ったスーツは脱がなきゃならない。その間に、私はしゅっしゅ〜と削りはじめる。
朝、炊きあがっていたごはんを確認、よし!Tシャツにペチコート姿の叔母がともかくは小どんぶりを二つ並べる。
冷蔵庫から出したバターをふたかけ入れ、その上にごはんをふかっと盛る。決してぎゅっと盛ってはならない。削ったはなから鰹節をのせていくと、ふわっわわっとダンスする。そこへ、間髪入れずに醤油をたらり。
すぐに箸で底からまぜながら、はふはふとたべる、いや、ここはかきこむ、が正しい。お行儀は悪いほどいいので、二人は立ったまま、はふはふはふ。
「うま〜い!!」と私が雄たけびをあげる。叔母が嬉しそうに笑う。
1杯食べ終わると、一息ついて、お茶入れようか?と。やっと二人は台所の小さな丸椅子に座る。そして、バター醤油がかすかに残るどんぶりに、こんどは半分のごはん、粉になった削り残りの鰹節、焼きのりを揉んでぱらぱらとかける。濃い目に入れたほうじ茶をかけて、ざざざっーと。ふうーっ。
あれは叔母の家に下宿していた大学生のころ。玄関から、鰹節バター醤油ごはんまで、二人とも無言。今思うと可笑しくってたまらない。
バターたっぷりに、熱々のごはん、削りたての鰹節は、すかした山の手夫人だったはずの叔母の大好物。1度食べると、次の日も、次の日も食べたくなって、鰹節がちんまりとなるまで削って、二人で丸々と太ってしまうほど好きだった。
夫に従う上品な大正女は、叔父の前では決して食べなかったけれど、思えば、叔父にも食べさせてあげたら、二人の距離もぐっと近づいたのかも。
そうあれは、山の手猫まんま。なんだかんだ言っても、こういうのがいちばんおいしいのよ、
と、いつも言っていた。
叔母が亡くなって、8年。最近よく、山の手猫まんまを思い出す。そして私も、バタバタと忙しい日、あ、帰ったら・・・と、白いごはんとバターと鰹節が組んず解れつする様子を妄想しながら、家路を急ぐのだ。
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COLUMN カネニニシの鰹節コラム
かつお節はなんで踊るの?
かつお節をあつあつの食べ物の上にのせると、ゆらゆらと踊っているような面白い動きをします。
みなさまも小さいとき、一度くらい「なんで踊るのだろう?」と思ったことがあるのではないでしょうか?
かつお節が踊る理由、それはかつお節がとても薄いこと、水分量が深く関係しています。
かつお節は旨みを凝縮させる為、天日干しなどをし水分を飛ばして乾燥させています。その乾燥したかつお節に、食品から出るあつあつのゆげ(水蒸気)があたります。
ゆげにあたるとかつお節が水分を含み、乾燥して縮んでいた細胞が元に戻ります。
全体の細胞が大きくなり、かつお節に大きな応力が発生することにより、反り返るなどの動きが起こります。
更に細胞は限界まで大きくなり破裂する事で、発生した応力がなくなり、全体のバランスが崩れて、かつお節が複雑に変形します。
水分にムラがあり、かつお節の至る所でこの現象が続き、かつお節が生きているように踊るのです。
あつあつのゆげの中で踊るかつお節が食欲をそそります。
ぜひ、かつお節をご飯やお好み焼きに乗せて、踊るかつお節を楽しみながら食べてみて下さい。
鰹節と私『第三回』 エッセイ著者情報 |
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山脇りこさん |
料理家。東京・代官山で料理教室『リコズキッチン』を主宰。旬の自家製のクラスやだしの教室も人気。長崎の旅館で生まれ、四季折々のしつらえと食材、美しい花、器に囲まれて育つ。なんでもつくる家だったことから自家製マニアに。旅好きで、世界&日本各地の市場や生産者を訪ねて、土地に根ざした味を探すことをライフワークにしている。醤油、味噌、酢などの蔵をまわる調味料マニアでもある。『いとしの自家製』(ぴあ)、『一週間のつくりおき』(ぴあ)、『明日から、料理上手』(小学館)、『今日の晩ごはんと明日のおべんとう』(家の光協会)など著書多数。 |